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最高裁判所第二小法廷 昭和54年(行ツ)86号 判決

熊本市琴平二丁目五の一九

上告人

渡辺美智子

東京都練馬区大泉学園一六三一

上告人

渡辺嘉信

熊本市琴平二丁目五の一九

上告人

渡辺清美

東京都町田市本町田七二一の七三二号

上告人

斉野京子

右四名訴訟代理人弁護士

元村和安

熊本市東町三番

熊本東税務署長

被上告人

宮崎保

右指定代理人

馬場宣昭

右当事者間の福岡高等裁判所昭和五二年(行コ)第一三号相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分の取消請求事件について、同裁判所が昭和五四年三月一三日言い渡した判決に対し、上告人らから全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人元村和安の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮崎梧一 裁判官 栗本一夫 裁判官 木下忠良 裁判官 塚本重頼 裁判官 塩野宜慶)

(昭和五四年(行ツ)第八六号 上告人 渡辺美智子外三名)

上告代理人元村和安の上告理由

原判決は相続税法第二条第一項ならびに同法第一三条第一項第一号、第一四条の解釈、適用を誤り、この誤りが原判決に影響を及ぼすことは明白である。すなわち、

一、被相続人はその所有にかかる熊本市琴平二丁目四二九番の二および同四二九番三各宅地(以下「琴平の土地」という。)を、昭和四四年一二月二四日熊本市に収用されたが、その代金相当額一〇、八三九、四八六円は、右契約に先立つて、熊本市都市計画部長と被相続人が同月一一日付で取交わした覚書に基づき、熊本市が熊本市新南部町東原一〇九番の畑の一部(現在地番は、分筆等のため八二番二三、以下「新南部の土地」という。)を代替地として被相続人に取得させ、被相続人は右土地が名義変更された後前記代金相当額一〇、八三九、四八六円を熊本市に返還することになつているもので、これを要するに、被相続人と熊本市との間に昭和四四年一二月二四日琴平の土地と新南部の土地の交換契約が成立したというべきである。したがつて、昭和四五年五月一〇日相続開始の時点では、新南部の土地は上告人渡辺美智子と共同相続人訴外渡辺嘉明が二分の一宛相続により取得したもので、相続税法第二条第一項の「相続に因り取得した財産」に該当し、前記代金相当額一〇、八三九、四八六円は将来熊本市に返還すべき性質の仮受金で上告人渡辺美智子が相続により取得した債務であり、同法第一三条により控除さるべき債務に該当するものである。

二、しかるに原判決は、「昭和四四年一二月二四日被相続人と熊本市との間に前者を売主、後者を買主とし、代金一〇、八三九、四八六円で琴平の土地の売買契約が締結されたこと、右契約に先立ち、同月一一日熊本市都市計画部長中田茂夫と被相続人との間に『熊本市と被相続人間に琴平の土地の売買契約および同土地上の物件移転契約が締結されたときは、熊本市は新南部の土地を所要の手続を完了したのち買収し、被相続人が買収される土地(琴平の土地)の代替地として、正常な取引価格により、琴平の土地の売買代金相当分を被相続人に売渡すものとする。右熊本市が譲渡する予定の土地の平方メートルあたり予定単価は七、五七〇円である。』旨の覚書を取交わしていた」旨認定し、「契約当事者たる熊本市と被相続人間において、事務処理として琴平の土地の売買、新南部の土地の売買という二個の売買の形式をとつたものの、その実質をみれば、当事者双方とも琴平の土地と新南部の土地の交換を意図して右二個の契約を締結した事実を是認できないではない。」と判示しながら、しかもなお、新南部の土地が相続税法上の相続財産に該当しないと判示している。右判示が右認定事実と矛盾することは明白である。

三、右判示の誤りは、相続開始当時新南部の土地の所有権移転登記手続が未了であり、農地法所定の許可申請手続が未了であつたとしても、何ら是正され(右判示が正当化され)るわけのものではない。新南部の土地は、現地において確定しており、公共用であるため農地法所定の許可がなされることは確実であり、熊本市が右土地を取得する見とおしがあり、譲渡につき熊本市住宅協会の形式的な形式的な議決が残されているのみで、熊本市の担当者としても琴平の土地と新南部の土地との交換契約の履行が不能となることは全く考えていなかつたからである。

四、前記代金相当額の仮受金が熊本市の予算執行の都合で、被相続人不知の間に熊本市の方から上告人渡辺美智子の銀行口座に振込送金されたものであり、将来熊本市に返還すべきことが確定していた債務に該当していたことは明白である。原判決は、これが相続税法一四条一項にいう「確実な」また同法第一三条第一項第一号にいう「現存する」債務に該当しないと判示しているが、支払期日が「何年何月何日」と定まつていなくても、それが「新南部の土地が名義変更された時」という形で定まつており、旦つ前述のとおり右名義変更が将来実現するであろうことが確実視される場合には、右債務は「現存する確実な債務」と認めるのが相当であり、本件の仮受金は右の意味において「現存する、確実な債務」に該当するものである。

よつて、原判決は破棄さるべきものである。

以上

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